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研究者インタビュー

ゲーム研究者インタビュー

坂元 章教授インタビュー【第3回】

テレビゲームへの正しい理解を~ゲーム研究者インタビュー

坂元 章教授インタビュー

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坂元 章(さかもと・あきら)

お茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科教授

1963年、東京生まれ。86年、東京大学文学部卒業。東京大学文学部社会心理学研究室助手、お茶の水女子大学文教育学部心理学科専任講師、同助教授などを経て、04年よりお茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科教授に就任。博士(社会学)。 日本シミュレーション&ゲーミング学会理事、日本パーソナリティ心理学会理事、特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)理事も務める。

book 『テレビゲームと子どもの心 子どもたちは凶暴化していくのか?』
坂元 章・著/メタモル出版刊

テレビゲーム悪影響論の真偽を研究データをもとに検証した、テレビゲームに熱中する子どもとの接し方に悩んでいる保護者のための一冊。

第3回作り手側にできること、保護者にできること

規制に任せるだけでいいの?

――どうやってテレビゲームと付き合ったらいいのか、悩んでいる保護者の方も多いと思います。また、作り手側も対応を迫られていますが、どのような見解をお持ちでしょうか。

坂元: テレビゲーム業界は、神奈川県他の有害図書指定問題(注1)を受けて、自主規制を強めていこうとしています。テレビゲームの技術的な発展は今後も続くでしょうから、そうすると、さらに人間に対する影響力というのは強まります。だから、規制を強めようという一方的な流れになってしまう懸念があります。

例えば、今までは「ここまでの表現が18歳以上対象だったけれど、もっと下に範囲を広げよう」とか、そういう話になる可能性があると思います。

テレビゲーム業界も保護者の方も、規制をするということ自体の問題をしっかりと認識し、それを共有していくことが重要だと思います。

まずは議論を活性化すべきだと思います。今の状況は、完全に「規制」と「テレビゲーム業界の経済的利益」が戦っている図式です。それもあるとは思いますが、本当は、「規制」と「表現の自由」との戦いや、「規制」と「豊かなメディア社会」の戦いでもあるべきなんです。

法規制で対処されると、思考停止が起こる懸念がありますし、それが突き詰められると、使えないメディアと、メディアに対して無知な大衆だけが残ることになりかねません。もっといろいろな選択肢を議論した上で、最終手段として法規制するというのであれば、わかるんですが。

ゲームの作り手にできることって?

――そういったなかで、メーカーなど作り手側が考えていくべきことは、どのようなことだと思われますか。

坂元: CERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)が対象年齢のレーティング(注2)を行っています。こういった対策は必要ですが、これだけですとやや受け身だと思います。受け身の対策では、負けづらいということはあっても、勝つことはないですよね。

今後ハードの性能が上がり、テレビゲームがさらにリアルになるにつれて、悪影響論がより強くなっていくことが予想されますが、そうなってくると、クリエイターへの規制が多くなって、面白いテレビゲームをつくりにくくなってしまうと思います。

だから、テレビゲーム業界はもっと攻めの対策を採ってはどうなんでしょうか。テレビゲームがリアルになることによって、より大きな感動を得られることや、教育分野や医療・福祉分野で有効活用できることなどを、強く訴えていくことが必要だと思います。

また、保護者の方に、テレビゲームとの付き合い方がわかるような情報をテレビゲーム業界側が提供することも必要でしょう。 テレビゲームは悪ではないのだと、社会の見方を変えていかないと、規制するだけの状況になってしまうのではないでしょうか。

規制はテレビゲームのすばらしい技術と、それがつくりあげた文化をも縛るものですし、ゲームクリエイターが育たない、ということにもなりかねません。

これは、テレビゲーム業界にとっても打撃ですが、社会にとっても損失ではないかと思います。

保護者はどうすればいい?

――保護者の方に、なにかアドバイスはありますか。

坂元: テレビゲームの総合的な理解というのが、なかなか保護者の方には難しいというやむをえない部分がありますよね。テレビなら見ていればわかりますが、テレビゲームはある程度うまくないと、内容がとらえられませんから。

また、同様の理由で、テレビゲームの研究者がまだ少なかったこともあって、保護者の方に参考になる資料が、これまで提供されていなかったというのがあるんです。

家庭でテレビゲームとどう接するか、ということを書いた本もあるにはあるんですが、そういった書籍に書いてあることも、研究が進んでいるわけではないんです。あくまで提案なんですよ。

一般論は各家庭には通用しません。なぜなら、子供はそれぞれ個性が大きく違いますから。だから、レーティングや書籍など、今ある情報(注3)を参考にしつつ、個別対応をしていくしかないし、それが適当であると思います。

保護者の方が、自分の子供について一番情報を持っている、もしくは得られる状況にあるわけですから、子供とコミュニケーションをとりながら、テレビゲームといい形で接してもらえればと思います。

もっとも重要なことは、テレビゲームと子供の関係に関心をもつということです。それさえできれば、少なくともいい方向にはいくと思います。

最後にーー"望ましいテレビゲーム社会のために"
――最後に、これからの望ましいテレビゲーム社会とは、どのようなものだと思われるかお聞かせてください。

坂元: メディアである以上、テレビゲームにはメリット・デメリットがあります。テレビゲームの悪影響が心配であれば、家庭で対処していただくのがベストだと思いますが、行政官庁が自由な発想のテレビゲームをつくれなくさせるというのは、基本的に良いことではないですよね。

メーカーやCESA、NPO、学校などが情報をうまく提供して、その情報を見ながら、最適な形でテレビゲームとつき合っていく方法を、テレビゲームを買う側、つまり各家庭で模索していくのが、これからの望ましいテレビゲーム社会であると思います。

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(注1)神奈川県他の有害図書指定問題

2005年6月、カプコンから発売の『グランド・セフト・オートIII』が、神奈川県青少年保護育成条例の有害図書に指定された。それを皮切りに、埼玉県でも有害図書に指定されたが、短時間の映像鑑賞での判断など、その決定のプロセスには疑問の声も。
同ソフトは、パッケージに「18才以上対象」のマークを明示し、「このゲームには暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています」と明記されている。

(注2)レーティング

2002年にCEROが発足し、ゲームソフトの内容をチェックした上で、適正年齢を「全年齢対象」「12才以上対象」「15才以上対象」「18才以上対象」の4つにレーティング(格付け)し、その年齢をユーザーに提示することをテレビゲーム会社に求めている。すでに1,800本以上のゲームソフトがレーティング済み。

(注3)今ある情報

一番便利と思われるのがインターネットの活用で、レーティング済みであれば、CEROのウェブサイトで知りたいゲームソフトのレーティングを、簡単に検索できるようになっている(http://www.cero.gr.jp/search/)。また、メーカーのウェブサイトなどをチェックすれば、ゲームソフトの内容も調べることができる。