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研究者インタビュー

ゲーム研究者インタビュー

斎藤 環先生インタビュー【第2回】

テレビゲームへの正しい理解を~ゲーム研究者インタビュー

斎藤 環先生インタビュー

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斎藤 環(さいとう・たまき)

筑波大学医学専門群/爽風会佐々木病院 精神科医

1961年、岩手県生まれ。筑波大学医学専門群(環境生態学)卒業。医学博士。現在、爽風会佐々木病院勤務、同病院診察部長。『社会的ひきこもり』(PHP新書)、『「ひきこもり」救出マニュアル』(PHP研究所)、『ひきこもり文化論』(紀伊國屋書店)など著書多数。テレビゲームやアニメなど、サブカルチャーにも造詣が深い。

企業とつくるキャリア教育 小学校から始める新しいキャリア教育の進め方を解説し、企業による実践事例も収録。テレビゲームに関する授業も紹介されている。

第2回テレビゲームはコミュニケーションツール

2006年3月13日掲載

テレビゲームは、ひきこもりの解決に活用できる?

――テレビゲームをした結果、ひきこもりになることは"ほぼない"とのことですが、テレビゲームが、ひきこもりの解決に役立つということは考えられますか。

斎藤: ひきこもりは、何かを楽しむという心のゆとりをなくしていますから、テレビゲームも含め、できるだけ娯楽に触れる機会を増やしたほうがいいとは思います。しかし、ひきこもりの解決に直接的に役立つということはないでしょう。もし、何か特殊なテレビゲームをするだけでひきこもりが解決できるとするならば、それこそ危険です。ゲームが心まで操作してしまうのですから。

ただ、そういうことがないから、逆にテレビゲームはやらせても安全なのです。特に、親が子どもと一緒にテレビゲームをするのはいいですね。親子のコミュニケーション復活のきっかけになる場合もあります。親が積極的に活用すれば、テレビゲームはコミュニケーションづくりの良いツールになりますし、そういう意味でなら間接的にひきこもりの改善に役立つことはあるということです。

ただ、なかなか親がテレビゲームをやりたがらないのです。世代的にテレビゲームに禁忌的な意識があることが多く、『ゲーム脳の恐怖』のような根拠の不十分な本が受け入れられたというのは、"やはり悪魔の箱だったか"という考えがあるのかもしれません。これに関しては、もう少しすればインベーダーゲーム世代が親の年代になりますから、状況は少しずつ改善されていくでしょうけれど。

子どもがひきこもり始めたら?

――これからテレビゲームをするようになる、小さなお子さんがいらっしゃる保護者の方は、テレビゲームとどう付き合っていけばいいと思われますか。

斎藤: ひきこもりやニート問題への対策という話になると、個室を持たせるな、テレビゲームをさせるな、テレビを観せるな、外で遊ばせようなど、"自然に帰ろう"的な話が蒸し返されてきますが、噴飯物としか言いようがありません。

私はもちろんこういう言説には反対で、周囲にテレビゲームをやる子どもがたくさんいる以上、自分の家では子どもにテレビゲームをさせなかったとしても、テレビゲームに全く触れないというのは無理な話ですよね。だったら、禁止するのではなくて、積極的にテレビゲームに触れる機会を与えて、付き合い方を学ばせたほうがいいのではないでしょうか。

ただ、保守的と思われるかもしれませんが、私は思春期のうちは、個室でテレビゲームをやらせることは反対です。時間制限を設けて、リビングなどでやらせるべきであると思います。ネットについても同様ですね。個室はあったほうがいいのですが、ネットやテレビゲームについては、ある程度の年齢まで、親のコントロール下でやるというのを徹底したほうがいいと思います。

――保護者の方ができる、ひきこもりの対策には、どのようなものがあるのでしょうか。

斎藤: ひきこもりは広い意味で自立の問題ですから、どうやったら自立させられるかというふうに考えていけばいいと思います。母子密着状況があると、ひきこもりの方向に崩れていきやすいということは、はっきりと見えてきているのですから、親の覚悟が重要なのです。これは、親がいつ子どもから自立するかという話でもあるわけです。

ですから、私はひきこもりもニートも、親と子ども双方が、"どの時点で子どもは親から自立し、親も子どもから自立するか"という線引きを明確な意識として持っていただくことが、ほぼ唯一の対策だと思っています。具体的には、思春期に入る前くらいの段階で、親は子どもに、「親としてあなたの面倒をいつまでみられるか」というタイムスケジュールをはっきりさせておくということです。20歳まででもいいし、大学を卒業するまででもいい。こういう線引きをはっきりと子供に伝えて、折に触れて繰り返しそれを確認していくことが大事です。

――実際に子どもがひきこもり始めてしまった場合は、どのように対処するのがいいのでしょうか。

斎藤: まず、親が自分の余裕を確保しなければなりません。パニックになったら対応が硬直していって、頑張るほど逆効果なことをしてしまいますから。私はまず、本人ではなく親だけが専門家に相談に通ってみることをお勧めしています。親は本人を連れていこうとやっきになることが多いですが、焦って本人を引っ張ってくる必要はありません。親から状況を聞いて、どれだけ深刻か判断し、すぐ連れてきたほうがよければ大変ですがそうしてもらいますし、そうでない場合は親だけに通ってもらい、まずは親の気持ちの上での余裕を確保してもらうのです。

本人に対してやっていただきたいことは、プレッシャーをかけたり叱ったりするのではなくて、あの手この手を使って本人を家でくつろがせてあげるということです。くつろがせるというと放任に走る親が多いのですが、放任すると、本人は見放されたと思ってしまいます。本人は内心ではかまってほしい気持ちもありますから、傷つけないようにかまってあげてほしい。口で言うのは簡単ですが、これが結構むずかしいんですね。でも、子どもがひきこもり始めたら一番にやってほしいことです。

――ひきこもりについて、適切な対処法を学ぶには、どうしたらいいと思われますか?

斎藤: 傾向として、親が情報をうまく活用できていません。ネットは使わないし、本は読んでいるといいますが、ゆとりがないからか内容が全然頭に入っていないケースも多いです。私がやってはいけないと書いていることを、延々と実行されていますから。テレビゲームなどに責任転嫁する前に、まずは適切な情報を集めてほしいです。NHKのサイト(注3)に行ったっていいですし、情報はいくらでもあると思います。

私の本にはひきこもり改善のためのマニュアルが書いてありますが、それだけを読んでひきこもり状態が改善されたケースもあります。適切な対処法を学んでいただければ、無理に治療者と本人が会わなくても、問題を解決できることもあるわけです。みなさんは人生の中で精神科とはなるべく関わりたくないと思っているでしょうし、それは本人も同じです。ですから、本人を急いで無理に来させようとするよりも、来させないで何ができるか、ということを先に考えていただきたいと思います。

(注3)

2002(平成14)年10月~2005(平成17)年3月まで運営されたサイト「ひきこもりキャンペーン」「ひきこもり相談室」で掲載されたコンテンツを再録した「ひきこもり情報/NHK福祉ネットワーク」では、ひきこもりに関する情報が網羅されており、斎藤先生のコラムも読むことができる。