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研究者インタビュー

ゲーム研究者インタビュー

坂元 章教授インタビュー【第2回】

テレビゲームへの正しい理解を~ゲーム研究者インタビュー

坂元 章教授インタビュー

写真

坂元 章(さかもと・あきら)

お茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科教授

1963年、東京生まれ。86年、東京大学文学部卒業。東京大学文学部社会心理学研究室助手、お茶の水女子大学文教育学部心理学科専任講師、同助教授などを経て、04年よりお茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科教授に就任。博士(社会学)。 日本シミュレーション&ゲーミング学会理事、日本パーソナリティ心理学会理事、特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)理事も務める。

book 『テレビゲームと子どもの心 子どもたちは凶暴化していくのか?』
坂元 章・著/メタモル出版刊

テレビゲーム悪影響論の真偽を研究データをもとに検証した、テレビゲームに熱中する子どもとの接し方に悩んでいる保護者のための一冊。

第2回テレビゲームの有効活用

テレビゲームの魅力って?

――メディアやテレビゲームの研究の中でも、悪影響が本当にあるかどうかの研究についてお話をうかがってきましたが、テレビゲームの特徴や有効性についての研究についておうかがいします。

坂元: その前に、テレビゲームは特に最近、悪い面ばかり注目されるようになっていますが、他のメディアと同様に、大きな喜びや楽しみ、幸福感や感動を得ることができるものなんだということも認識してほしいですね。テレビゲームによって、いい影響を受けている人もたくさんいるわけですから。

好きなテレビゲームをやるのを楽しみにしている子供からテレビゲームを取り上げたら、むしろそちらのほうが悪影響を与えるかもしれません。テレビゲーム中毒になってしまって、治療のために取り上げるというのならわかりますが。

しかし、なぜこんなに人はテレビゲームに惹きつけられてしまうのでしょうか。研究者の間でもいろいろなことがいわれていますが、私なりにまとめますと、テレビゲームには、従来のゲーム(テーブルゲームなど)の魅力をコンピュータによって増幅させた、5つのポイントがあるんです。

(1)常に適切な目標(中くらいの難易度)が設定されるため、やる気が出る。
(2)プレイヤーに対し、クリアすることで次の展開が楽しめるなど、強い報奨が与えられる。
(3)操作が自動化されていて、ゲームのコアの部分だけが楽しめる。
(4)複雑な内容を提供していて、なかなか飽きない。
(5)現実的な場面を提供していて、より没入しやすくなっている。

メディアとしてのテレビゲームとは別に、テレビゲームのこれら5つのポイントを利用したいろいろな有効活用が考えられ、また、実行されています。

テレビゲームはどんなふうに活用されている?

――具体的には、どのような分野で活用されているのでしょうか。

坂元: 主に、教育分野や医療・福祉分野に活用することが考えられています。まず、教育についてですが、従来からコンピュータを使った教育が行われていますよね。コンピュータを使うことでマイペースで学習できる、シミュレーションが示せる、すぐにフィードバックができるなどの利点があります。これをテレビゲームでできないか、ということです。

コンピュータを使った教育の利点に、テレビゲームのもつ「人を惹き付ける魅力」をプラスした、テレビゲーム仕立てのコンピュータ教育ソフトがあれば、勉強が苦手な子供に対して、かなり効果的な教育ができると思います。ブレイクする可能性もあるんじゃないでしょうか。
実際にこれまでの研究結果から、学業不振の子供が教育用テレビゲームをすることによって、数学や読みのテストの点数が上がったり、勉強意欲が向上したりすることが分かっています。

――医療・福祉分野では、どのようなことが考えられているのでしょうか。

坂元: 健康維持・改善について、テレビゲームが有効なのではないかといわれています。たとえば、高齢者の方の認知症防止に効果があると注目されています。日本では、慶應義塾大学の大岩元氏を中心とする「遊びの創造研究会」が、『めんそ~れ沖縄』(注1)という、老化による認知症防止のためのゲームソフトを開発しています。

あと、よくいわれるのがリハビリテーションです。テレビゲームのコントローラを操作することで、楽しく手などのリハビリができるといわれています。
また、ADHD(注2)の治療にも役立つといわれています。ADHDとは、注意欠陥多動性障害のことですが、じっとしていないとうまくいかないテレビゲームをやらせると、効果があるようですね。テレビゲーム以外の治療法と比べて、効果自体はさほど変わらないのですが、周囲のサポートが必要ない分、コストがかからないという利点もあります。

心理臨床分野でも、カウンセリングで使えるといわれています。対人恐怖か何かで不登校の子供が、カウンセラーになかなか心を開いてくれないという場合に、テレビゲームをやりながら話をすると、話をしてくれるというんです。テレビゲームがクッションになって、対面するよりもリラックスして話ができるようなんです。だから、カウンセラーにはテレビゲーム経験は必須と言われたくらいです。

リハビリやカウンセリングなどは、本人にとっては基本的に辛いことなんです。辛いものを、テレビゲームの人を惹きつける魅力で克服しようとしているわけです。

テレビゲームは毒にも薬にもなる?

――テレビゲーム仕立てのコンピュータ教育ソフトは、ブレイクする可能性があるとのことですが、まだ普及していないのはなぜだとお考えですか。

坂元: 学校やメーカーで、なぜコンピュータ教育ソフトに力を入れないかというと、メーカーとしては、まず売れるかどうかわからないわけです。さらに、優れた教育ソフトをつくるのも難しいですが、それに加えて面白いテレビゲームというのを両立するのは、非常にハードルが高いんですよ。ハードルが高いということは、コストがかかるということですが、その割に、マーケットがはっきりしないんです。

なぜマーケットがはっきりしないかというと、家庭を対象にしているからで、これが学校に導入されるとなれば、マーケットは大きいので力をいれようということになります。 学校側がなぜそういう動きをしないかというと、学校という場にテレビゲームというものが合わないのではないか、という見方があるからなんです。

ただ、こういう見方は変わっていくもので、例えば私が子供のころは、漫画は学校にもっていっただけで怒られたんです。それが、今では多くの小学校の図書館に漫画が入っていますし、小学校に卸すためにつくられている漫画があるくらいです。漫画は面白くて、勉強の役に立つ、という見方に変わったわけですね。ですから、テレビゲームの有効性に目が向けられて、教育に利用するようになる日もくると思うんです。

――悪影響に比べると注目はされていないものの、テレビゲームの有効性も、認識されてきているということですね。

坂元: テレビゲームを含めて、メディアに接触することに対し、善か悪か、1か0かの議論が多くされていますが、心理学の分野では、子供の発育にはコンテンツの問題が深く関わっていることが指摘されています。
テレビならどんな番組か、テレビゲームならどんなソフトかによって、毒にも薬にもなるということです。 (つづく)

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(注1)『めんそ~れ沖縄』
商店街の福引きで特賞を当てた主人公が沖縄旅行に出発し、3泊4日の旅行の間にさまざまな場所を訪れ、沖縄の文化に触れながら人々と交流するゲームソフトで、入力手段やレイアウトなどが高齢者に適合するように工夫されている。
ユーザーはその旅程で知覚運動を必要とするミニゲームをいくつか行うことになる。
http://sega.jp/zaidan/report8/2_3.html

(注2)ADHD
注意欠陥多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)のことで、注意をすぐそらす、じっとしていられない、他人にちょっかいを出すなどの症状がある。軽度の発達障害だが、原因はまだはっきりとはわかっていない。