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研究者インタビュー

ゲーム研究者インタビュー

田中栄一先生インタビュー【第2回】

テレビゲームへの正しい理解を~ゲーム研究者インタビュー

田中栄一先生インタビュー

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田中 栄一(たなか えいいち)

国立病院機構八雲病院 作業療法士

1993年3月、弘前大学医療技術短期大学部作業療法学科卒業。1993年4月、北海道勤労者医療協会に入職。1998年4月、国立療養所八雲病院(現:国立病院機構八雲病院)に就職。現在に至る。作業療法士として、小児神経筋疾患に対して支援機器を用いた活動サポートを行っている。日本作業療法士協会福祉用具対策委員。日本リハビリテーション工学協会員。

第2回ゲームアクセシビリティの普及に向けて

2019年10月15日掲載

――患者さんたちが工夫をしながらゲームを楽しんでいるというお話でしたが、ゲームをやりやすくする工夫というのは、具体的にはどのようなものですか?

田中:若い子たちは比較的まだ手が動きますので、スマホや携帯型ゲーム機を使って遊ぶことが多いですね。ただ、何の支えもなくデバイスを持ち続けるというのが結構つらい。なので、スマホスタンドを利用したり、膝の上にクッションを置いてその上にコントローラを乗せたり、机の上に台を置いて画面の高さを調整したりして負担を減らす工夫をしています。

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スマホやタブレットって、タップしたりスワイプしたりするのが、意外と指の負担が大きかったりするんですよ。なので、そういうのが難しくなると、PCを使います。PCにスマホアプリを動かすエミュレータを走らせて、マウスを使ってゲームをするんです。それでも、クリックができるうちはいいのですが、やがてそれも難しくなるでしょう。そのときに、次はどういうデバイスを使えばよいかというのが常に課題になってきますね。

自力でずっと座っているのが難しい患者さんもいます。そういう場合は、病室のベッドで仰向けに寝たときに目の先にモニターがくるようにベッド上方にアームでモニターを固定して、寝たまま遊べるようにしています。

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ゲーム機やコントローラについても、手先の筋力が弱ってくると、ボタンが重くて押せなくなってきます。あるいは、指を伸ばすことができず、ボタンに届かなくなったりします。そういう場合は、PCの使用が選択肢になりますね。ゲームコンバータ(変換器)...これはゲーム機メーカー未認証の海外製品なんですけど(苦笑)...それと対応プラグインを使って、コントローラのボタンをキーボードやマウス操作に割り当てます。そうすれば、PC上で遊ぶことができます。

ほかには、デバイスそのものを改良するという方法もあります。コントローラを改造したり、補助スティックのような自助具を自作したりするんです。

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――そういった改造や自助具の自作も、田中先生ら作業療法士の方々が工夫されるんですね。

田中:ええ。コントローラを分解して、わずかなタッチで動かせるようにボタンをマイクロスイッチに付け替えたりするんですよ。スタッフが本人の要望を聞きながら、ハンダゴテとか引っ張り出してね(笑)。

自助具の作製にあたっては、3Dプリンタが活躍しています。これまで自助具は手作りしていたのですが、時間がかかるし、修正も手間がかかっていました。患者さん一人ひとりに合わせて手作りしているので、本人がいないと作れないんです。患者さんとしても、自分の好みの感じになるまで何回も作り直してもらうのは、やはり躊躇していたと聞きます。

でも最近、低価格化が進んできたので3Dプリンタを導入したんですが、買ってよかったです。データさえあれば、あとは出力するだけで作ることができますしね。壊れた際の修理も、予備品を作っておくのもずいぶん簡単になりました。3Dプリンタだったら、患者さん本人がいなくてもできるし、逆に患者さんが自分自身で作ることもできます。自分の気に入るように作り込んでいくこともできるので、それを楽しみにしている患者さんも多くいらっしゃいますよ。

ゲームの自助具以外にも、リハビリテーション用の装具を作製したりもします。また、患者さん自身が培った3Dプリンタの技術を活かして、それを仕事にするという流れもできましたね。上肢の障害がある筋ジストロフィー患者にとって、自分の手で何かを工作する機会はなかなかありません。でも3Dプリンタのおかげで、自分で作りたいものを実際に形にすることができるようになりました。その成果物を見て、さらにイメージを膨らませて、次の構想を練る...そんなものづくりの広がりも可能になりつつあります。仕事だけでなく、自分のオリジナル作品を作って展覧会に出展する患者さんもいますよ。

――先ほどから、患者さんがゲームをプレイする姿を拝見しているんですが、コントローラとマウスを併用している方とか、いろいろいらっしゃいますね。

田中:そうですね。ゲームがやりにくいポイントというのは人それぞれですから。こちらの高垣優太さんの場合は、コントローラやマウスの操作なら大丈夫なんですが、指でキーボードのキーをタイプするのは難しい。なので、ゲームコンバータと専用ソフトを使って、キーボードの入力キーをゲームコントローラの各ボタンに割り当てています。コントローラが使えない方とは逆のパターンですね。そうやってカスタマイズされたゲームコントローラと、マウスを併用してゲームをしているんです。

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こちらは堂向智樹さん。彼の場合は、今はコントローラもマウスも手先で扱えません。彼は昔からゲームが大好きで、特にアクションゲームやレースゲームが好きだったんです。その頃はなんとかコントローラを手に持ってやってたんですけど、そのうちそれも難しくなって、ゲームを1回やめちゃったんですね。でも、諦めきれなくて周りの人に相談したり、インターネットで調べたりして、いろいろ方法を探してたそうです。

そしたら数年前から、「アイトラッキング」というんですけど、目の動きだけで入力操作を行うことができる視線入力デバイスがありまして、それがわりと安く手に入るようになったんですよ。それで、そのデバイスを購入して、PCのゲーム...これは「World of Warships」というオンラインの海戦ストラテジーゲームですが、このゲームの操作に必要なキーボードの入力キーをアイコン化し、それを画面に配置して、視線入力ができるように設定しました。彼の場合はそれに加えて、ジョイスティック型のマウスも使っています。口元付近にアームで固定して、あごを動かしてマウスを操作してるんですよ。

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こちらの原田義孝さんは「Ace Combat」をプレイしていますね。視線入力と、あごで動かすジョイスティックマウス、それと、指先に固定したマイクロスイッチを使っています。彼も昔、思うように操作ができなくなって、しばらくゲームから離れていた時期があるんですけど、新しいデバイスが出てきて、また遊べるようになりました。こんな繊細な操作が要求されるフライトシミュレーションゲームも、工夫次第で遊べるようになるんですよね。

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――さまざまな工夫がありますね。感服します。

田中:学齢期からゲームに親しんできた彼らは、自分の病気の進行に伴い、その都度、多様な工夫を積み重ねてゲーム操作の方法を変えてきました。そうして絶えず「ゲームアクセシビリティ」を向上させてきたんです。「アクセシビリティ」とは「利便性」や「使いやすさの向上」を指す言葉で、「ユーザビリティ」とも言われます。「Webアクセシビリティ」「建物のアクセシビリティ」というように使われますよね。ですからつまり「ゲームアクセシビリティ」とは、「ゲームの利用のしやすさ」のことを言います。

ただ、こういったゲームアクセシビリティを向上させる彼らの工夫は、他施設の病院や在宅生活者には意外と知られていないということがわかったんです。自分たちがそうであったように、他の方もゲームを通して様々なプラスの機会を得られるような取り組みをしてみたい。このそう考えた彼ら有志は、自分たちが知り得た工夫を発信する活動を始めました。それが「ゲームやろうぜ!プロジェクト」です。メンバーは先ほどご紹介した高垣さん、堂向さん、原田さん、それともうひとり、今日はいらっしゃいませんが亀井佳汰さん。

具体的な活動としては、自分たちが編み出したゲーム操作の工夫などをウェブサイトで紹介しています。ゲームコントローラやゲームソフトは、多くのユーザーが操作しやすいように設計しているとは思うんです。ただそれは、やっぱり健常者ユーザーがプレイすることが前提で、手の動きや視覚・聴覚などに障害がある人にとっては、必ずしも使いやすいものであるとは限りません。そこで「ゲームやろうぜ!プロジェクト」のメンバーは、「障害者にとってどのような困難があるのか?」「どうしたら克服が可能なのか?」ということを自ら実演しながら、動画や記事を通して紹介しているんです。

ゲームやろうぜプロジェクト
「ゲームやろうぜ!プロジェクト」 https://www.gyp55.com/

また、Facebookのほうでは、主に海外から得たゲームアクセシビリティ情報を、日本語で紹介する活動を行っています。英国に「SpecialEffect」というゲームアクセシビリティ支援団体があるんですが、そこのサイトで紹介されている事例を、自分たちなりの言葉で日本語に翻訳して掲載しています。

このように、ゲームアクセシビリティの普及を目指して活動を続けています。いまでは、同じような障害を持つ方やそのご家族から、ゲームの工夫についての相談がサイトを通して寄せられるようになりました。プロジェクトメンバーも、「今度は僕が担当します!」と言って、自発的に役割を決めて対応するようになりましたね。「障害があっても、誰もが普通にゲームができること」。それが彼らが目指していることです。