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研究者インタビュー

ゲーム研究者インタビュー

坂元 章(さかもと・あきら)インタビュー【第1回】

テレビゲームへの正しい理解を~ゲーム研究者インタビュー

坂元 章(さかもと・あきら)インタビュー

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坂元 章(さかもと・あきら)

東京大学文学部社会心理学研究室助手/お茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科教授

1963年、東京生まれ。86年、東京大学文学部卒業。東京大学文学部社会心理学研究室助手、お茶の水女子大学文教育学部心理学科専任講師、同助教授などを経て、04年よりお茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科教授に就任。博士(社会学)。 日本シミュレーション&ゲーミング学会理事、日本パーソナリティ心理学会理事、特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)理事も務める。

企業とつくるキャリア教育 小学校から始める新しいキャリア教育の進め方を解説し、企業による実践事例も収録。テレビゲームに関する授業も紹介されている。

第1回テレビゲームの研究

テレビゲームの研究はどんなふうに行われてきた?

――坂元教授はテレビゲームだけでなく、メディア全般を研究していらっしゃいます。まず、メディア研究が行われるようになった背景を教えてください。

坂元: メディアの普及が進んで、力をもってきたなかで、メディアが人間に与える影響に世間の関心が高まるようになってきたからでしょう。いい影響ももちろんあるのですが、特に注目されているのは悪影響です。私の専門はもともと社会心理学なのですが、その中で、メディアが人間に与える影響を研究してきました。テレビ、テレビゲーム、インターネット、新聞などです。なかでも、一番研究しているのがテレビゲームです。 私自身は、メディアの与える影響や、メディアがつくりだした社会現象を研究するだけでなく、最近では、メディアをどのようにして教育・カウンセリングに活かしていくかなど、社会心理学の範囲を外れた問題を扱うようになりました。そこで、専門はメディア心理学というようにしています。

――テレビゲームの研究は、最近になって増えてきたと聞いています。その背景は、どのようにお考えでしょうか。

坂元: テレビゲームのハードやソフトの進化によって、コンテンツが現実世界に近くなってきました。テレビゲームはインタラクティブですから、テレビや映画のような表現力をテレビゲームが持てば、与える影響も大きくなってくると考えられます。それで、テレビゲームが人間に与える影響に社会の関心が高まり、研究量も増えてきたのだと思います。テレビと比べるとまだまだ少ないですけれど。
実は、私は1997年ごろまでは、「テレビゲームには悪影響を与えるほどの力はない」と言っていたんです。それが、ハードやソフトの進化や、最近の研究結果の変化もあって、今では、「テレビゲームが人間に与える悪影響は、ないわけではない」というふうに、いい方が変わってきています。

テレビゲームは本当に悪影響があるの?

――テレビゲームでは、どのようなことが心配されているのでしょうか。

坂元: 悪影響については、あるかどうかは別にして、少なくとも5つのことが心配されています。

暴力シーンが含まれるテレビゲームをプレイすることで、暴力性が高まるのではないか。
テレビゲームに没入することで、社会的不適応に陥り、人付き合いが苦手になるのではないか。
テレビゲームに割く時間が増えることで、学力や認知能力が低下するのではないか。
テレビゲームをプレイすることで、視力が低下するのではないか。
テレビゲームをプレイすることで、体力が低下するのではないか。

われわれは、これらの懸念が正しいのかどうかを研究しているわけです。一番心配されているのは、暴力です。テレビゲームの暴力シーンが、子供を暴力的な性格に変えてしまうのではないか、と懸念されています。研究量も一番多いです。

――暴力性とテレビゲームの関係について見解をお聞かせください。

坂元: 暴力性との関係については、条件付きで「ある場合もある」という方向に、研究者たちの意見は傾いています。ただ、関係があるということを、裁判に勝てるくらいの強い証拠で実証しろと言われても無理です。もちろん、関係がないということを実証するのも無理ですが。

暴力性が高まる条件というのは、まず「暴力が賞賛されている場合」。次に「暴力が正当化されている場合」、これは復讐のために相手を撃つとか、そういう場合ですね。それから「暴力をふるう主人公が魅力的である場合」。これらの条件の特徴は、暴力が肯定されているということです。
暴力シーンの"激しさ"よりも、暴力シーンの"意味付け"のほうが、そこから価値観を学んでしまう危険があるため、影響が大きい(注1)という意見も強いように思われます。

社会的不適応とゲームの関係って?

――少年犯罪・青年犯罪との関係も、最近メディアで話題になっていますが。

坂元: 暴力性が高まったからといって、即、犯罪につながるわけではないんです。テレビゲームに単独で犯罪を引き起こせるほどの影響力があるとしたら、世界中犯罪だらけになっていますよね。いろいろな要因が重なることで、暴力行為や犯罪行為につながるわけです。

犯罪行為には、その人の資質や、生育上の問題、友達の影響、そのときのストレスなどいろいろな要因がありますが、その要因のひとつにテレビゲームがなり得るか、ということを考えたときに、なる場合はある、という研究結果はいくつか出ています。

でも、テレビゲームが暴力性を高める場合があるといっても、大きく高めるわけではないんです。もっと大きな要因はたくさんあって、たとえば、もっとも暴力につながる要因は、性別なんです。男性のほうが女性よりもはるかに暴力性が高いんです。それから、大きなものでは家庭の要因や貧困ですね。

だから、ないとはいえないけれども、テレビゲームがとくに大きな影響をもっているとは今のところ考えられていません。ただ、先ほども言いましたが、これからさらにテレビゲームがリアルになった場合に、影響が大きくなる可能性はあります。

――ほかの懸念についてはどうでしょうか。

坂元: テレビゲームが子供の社会的不適応を起こすという議論については、そういう研究結果はないんです。社会的不適応の子供が、テレビゲームに没入しやすい、という研究結果があるだけです。また、学力や認知能力を下げるという研究も、はっきりと実証されたものはないんです。体力の低下についても、いまのところテレビゲームが原因という証拠はありません。

ただ、視力については、昔からコンピュータ技師で、視力低下をはじめとして目の異常を訴える方が多く、こうした問題はVDT障害(注2)と呼ばれています。テレビゲームでもディスプレイを見る以上、長時間やれば、同じようなことが起こるだろうという見方はあります。 (つづく)

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(注1)そこから価値観を学んでしまう危険があるため、影響が大きい
これまでは、テレビと暴力性の関係についての研究において、暴力が肯定されるシーンを見ることで欲求不満が解消されて、逆に暴力行為が出なくなるという「カタルシス説」と、暴力を問題解決の有効な手段として認識してしまうなど、価値観を学んでしまう危険があるという「学習説」に二分していた。
現在は、その時の欲求不満が解消されるだけの短期的なカタルシス説より、価値観を学ぶため、長期的な影響がある学習説のほうが、多く支持されている。

(注2)VDT障害
モニター画面=VDT(Visual Display Terminal)作業に関わるプログラマーやシステムエンジニアが、眼精疲労やドライアイ、視力低下をはじめとする目の異常を訴えるケースが多かったことから、こうした問題をVDT障害と呼び、国内外で研究がなされている。
研究結果から、VDTと長時間接触する場合、テレビゲームも含め、目に与える悪影響は否定できない。