CESA:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会

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倫理に関する自主規制

「東京ゲームショウ2000秋」シンポジウム倫理委員会パネルディスカッション(抄録) 「『テレビゲームの影響』を考える」

「東京ゲームショウ2000秋」と、併せて開催されたCESA(コンピュータエンターテイメントソフトウェア協会)倫理委員会主催のパネルディスカッションが開かれた。
このパネルディスカッションは"『テレビゲームの影響』を考える"と題され、昨今マスコミで取り上げられる「TVゲームの影響で残酷な事件が増えている」、「ゲームによって引きこもりがちな青少年が増えている」などといったことに対する議論を、以下の各氏に討論していただいた。

コーディネイター...香山リカ氏(精神科医/神戸芸術工科大学助教授/CESA倫理委員会)
パネラー...
飯田和敏氏...(有)パーラム取締役
坂元章氏 ...お茶の水女子大学助教授
服部桂氏 ...朝日新聞社出版局「ぱそ」編集長

理解不足のマスコミが短絡的な報道をする

香山:TVゲームが悪い影響を与えている決めつけられている現状に対する強い不信感を持つ。確固とした確証がないまま報道されているという点も問題。精神科医という立場から、実際の現場においてTVゲームの青少年への影響を研究しているが、TVゲームには良い影響も悪い影響もあるのではないのか。
飯田:クリエイターとしてよりも、ゲームプレイヤーとして自分の過去の体験をもとに、TVゲームには影響があり、それは僕にとってはいい影響の方が強かった。
服部:マスメディアは事件があると必ず理由を探し、真実かどうかは二の次で「安心したい」、あるいは「納得したい」ために理由を探すといった自浄作用みたいなものがマスメディアの中には常にある。また、マスメディアに関わっている人はゲームに無理解な人が多く、短絡的に解釈して報告してしまうことがある。TVゲームのような新しいメディアに対しては、悪いことの方が書かれる傾向があるが、受容していくということも大切。過去の事例から「情報の共有」ができないと不気味であり、新しいメディアは悪い影響を与えるという短絡的な考えになるのではないか。

TVゲームの倫理的な功罪

坂元:TVゲームの影響の有無は、研究事例が少ないので判断しにくいのが現状であるが、少ないデータを元に、現状を分析すると、心理的な側面でTVゲームの影響が問題になっていると言われているのが「社会的不適用」、いわゆるパラサイトな子供たちである。TVゲームをやっていると人とつきあうスキルがなくなり、現実の複雑な人間関係の中で学ばなければならない社会的な能力が学べなくなる。こうした子供たちは、TVゲームの中の単純なコミニュケーションに慣れ、現実世界のより濃厚な人間関係ができなくなって、引きこもると考えられる。これまでの研究成果を見る限り、このような因果関係を実証したものはないが、インターネット上で行われるチャットや、掲示板における同時コミュニケーションでは、社会的不適用を起こしているというデータがある。
TVゲームによって攻撃性が促進されるのではないかという問題について、5年前までの研究のデータでは5歳児までは影響があり、それ以降は効果はないということだったが、最近ではもっと上の年代にも影響はあるらしいという研究データが出てきた。
なぜ上の年代に影響が出てきたのかについては、ゲームのリアリティが増して来たことに要因があるのではないか。しかし、当然すべてのゲームが影響を与えるわけではなく、限定された何かの特性を持つゲームが影響を与えやすいと考えられる。逆にTVゲームの利点では、例えば教育の場において普通の勉強よりもゲーム仕立てにすると子供に非常に興味を示し、引きこもりの子供にもカウンセリングの補助として利用できたり、高齢者のリハビリや、健康補助にも利用できる。決して、マイナス要素だけではない。

TVゲームの有効利用

服部:TVゲームは言葉が通じなくても、共通体験になり、少なからず社会との体験の足がかりになり得るツールだと思う。
TVゲームがすべて悪いと決めつけると良い方の効用の芽も摘んでしまうので、良い、悪いの棲み分けをすればよいのではないか。しかし、現在ではそのような研究が圧倒的に少ないのでそのようなレベルの話がなく、研究を盛り上げなければいけない。ゲームの有効利用性については、まだ研究が足りなく因果関係を見つけることが重要であり、それには被験者、研究者とともに継続的な研究が必要である。大変な負担がかかるがやっていかなければならない。
飯田:人には暴力的な要素はなにかしらあるのだから、それをなくしてしまうよりかはTVゲームなどを使ってうまく発散させていく方が社会として健全ではないか。そして、クリエイターとしてはより忠実にゲームを表現したい、そのためには血(など)が出ても仕方ないこともある。しかし、作り手の良識としてはユーザーに害悪を与えるようなことはしたくない。
坂元:メディアリテラシーを身につけることが重要なこと。メディアリテラシーとはメディアからの情報を一歩引いて客観的に眺め、それが真実だと思いこまないようにすることが大事。例えば、子供が暴力的なメディア映像を見ても周りにいる大人が、これは作り物なんだ、本当はこんなことをしちゃいけないんだ。と注意することで影響を受けにくくなる。その結果、規制を少なくすることができる。
香山:TVゲームそのものはアイデンティティの回復や、自己回復の第一歩になる可能性を秘めており、いろいろな意味で良い面もある。悪い面も出てくるかもしれないが、将来的なことまで含めて広い視点で考えていくことが大事である。