Game Industry Interviews

研究者インタビュー

テレビゲームへの正しい理解を

馬場 章教授インタビュー

馬場 章先生

東京大学大学院情報学環教授/日本デジタルゲーム学会会長

馬場 章(ばば あきら)

1958年茨城県生まれ。東京大学大学院情報学環教授。1988年早稲田大学大学院文学研究科 博士課程単位取得退学。東京大学史料編纂所助手、助教授、同大学院情報学環助教授を経て、2005年より現職。史料編纂所において専門の近世経済史の研究に加え、歴史史料のデジタルアーカイブ化に関する研究に取り組む。大学院情報学環では、ゲームを中心とするデジタルコンテンツの研究に従事。2006年、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の初代会長に就任。2007年にはデジタルゲームの国際学術会議「DiGRA2007」の大会組織委員長を務め、ゲーム研究の普及拡大に貢献している。近著に『上野彦馬歴史写真集成』(渡辺出版)など。

馬場研究室 http://chi.iii.u-tokyo.ac.jp/
日本デジタルゲーム学会 http://www.digrajapan.org/

第3回ゲームは心を豊かにするもの

2008年03月10日掲載

シリアスゲームの可能性はさらに広がる?

――シリアスゲームはエンターテインメントにプラスして、さまざまな目的や効果を持つゲームをさすということですが、アナログのカードゲームやボードゲームは含まないのですね。

馬場:そうです。シリアスゲームはデジタルであることを前提としています。次の世代の人たちをターゲットにしている言葉と言ってもよいでしょう。

デジタルを前提とすることで技術的な問題が解決でき、音が入ったり、絵が動いたり、ゲームとしてのつくりこみや、ゲームの面白さが格段に増大します。その結果、ゲームが教育目的はもちろん、リハビリや医療、政治、経済、公共政策であるとか、さまざまな分野に広がっていくだろうと思います。

――高齢者に向けても、ゲームはいろんな役割をもたらしそうですね。

馬場:高齢者向けのシリアスゲームも考えられています。脳の老化防止によいことは間違いないです。肉体的な老化に対しても、機能維持、機能回復にある種のシミュレーションゲームなどが役に立つでしょう。すでにこの分野では医学的にもゲームの有効性が証明されています。

――そうやって新たなシリアスゲームが開発されると、シリアスゲームはプレイヤーのさまざまな可能性を伸ばすだけでなく、ゲームをつくる側、例えば音やビジュアルに関わる新たな才能が引き出されたり、技術の革新といった幅広い可能性が考えられますね。

馬場:現在の日本のシリアスゲーム開発はその有効性を半分くらいしか使っていなくて、まだまだいろんな可能性、応用の場面というのが存在すると思っています。ゲームは役に立つんだというゲームに対する新しい見方が確立すれば、従来のデジタルゲームに対する考え方がひっくり返るくらいゲーム開発は大きく変化するでしょう。

まず、シリアスゲームの対象プレイヤーは従来のゲームプレイヤーの範囲を越えています。これまでゲームに親しみのなかった方々も対象にすることで、新しい市場が出てくるチャンスが広がっている。ゲーム開発者の本領を発揮する場が広がっていると思います。

ゲームが新たな産業形態を生み出す?

――日本もぼーっとしていられません。

馬場:今のところ、日本のゲーム産業のアドバンテージはほかの国々に比べて大きいと思います。今、韓国のゲーム産業はあまり景気がよくありません。なぜなら、韓国のゲームの市場も開発もプラットフォームはPCオンラインゲームのほとんど独壇場になってしまっているから。でも、日本は家庭用があり、業務用があり、携帯型があり、携帯電話があり、というように複数のプラットフォームが存在します。また、ジャンルもシリアスゲームがあり、カジュアルゲームもあります。この多様性が日本のゲーム産業の強みです。

ゲーム産業は第2次産業(製造業)と第3次産業(サービス業)の両方にかかわる産業です。ここから新しい業態が生まれ、次の経済の中心になっていく可能性もあります。

――多様性があるということは、さまざまなゲームがプレイできることでもあります。

馬場:いろいろなゲームで遊べる日本のプレイヤーはすごく幸せです。そのことをもっと知ってほしいし、すごくありがたいことだということにも気づいてほしいです。

ゲームは心の豊かさにかかわるものだと思っています。地球上には、貧困や紛争で苦しんでいてゲームどころではない人々がまだたくさんいます。でも、世界中で必ずやゲームが必要になるときが来ると思うんですね。一日も早くそういうときが来るように貢献することも大事なことです。そしてそのときに、自信を持って、日本のゲームソフトやゲーム機を紹介できるようでありたい。

そのために、日本のゲームクリエーターの皆さんには、日本国内だけでなく、世界中の人に遊んでもらうんだという気概をもって、ゲーム開発に頑張ってもらいたいと思うんですね。日本のすぐれたクリエーターは海外から尊敬されています。そこに誇りと自信を持つべきです。そして、日本でゲーム研究に携わる私たちも、世界から尊敬を集められるような研究をめざしていかなければと思っています。

一昨年、私が所属する東京大学情報学環が発行している広報誌で、私も含めて何世代かの年男の研究者が集まって座談会をしました。その中でひと回り年上の廣井脩(ひろいおさむ)先生の言葉が忘れられません。廣井先生は長く地震災害の研究をされておられ、地震警報システムの開発にかかわってこられた職場の大先輩です。

「私は(地震災害という)シリアスなことを研究してきて、胃に穴が空くほど大変な思いをしてきたけれど、これからの研究者は人の心を豊かにしていく学問をやっていかなければいけない。その意味では、きみはゲームの研究をやっている。人の心を豊かにする分野の研究だからこそ、これから伸びていかないといけない」とおっしゃられたのです。

「なるほど」と思いました。ゲームが持っている魅力やエンターテインメントの重要性を訴えていけるよう、さらに研究を進めていきたいと思っています。

日常生活の中でゲームとどうつきあう?

――ゲームが持つ可能性を確実に広げていくには、まず日常生活で、たくさんの人がゲームとうまくつきあっていくことが前提になると思いますが。

馬場:ゲームとのつきあい方の知識、すなわちゲームリテラシーが必要だということは、お話しすると皆さんにわかっていただけるのですが、それをどうやって身につけるのかということが問題になります。まず大事なのは、ゲームを日常生活から遠ざけないこと。ゲームと積極的につきあっていこうという姿勢が大切です。

50数年前にテレビが登場したときに、「テレビを見過ぎると頭が悪くなるよ」といわれた。560年ぐらい前にグーテンベルクが印刷機を発明したときも、「本を読むと目が悪くなるよ」といわれた。でも、書籍やテレビは確実に人間の文化を進めてきたわけです。ゲームも今後、そういう役割を果たしていくと思います。ゲームと積極的につきあって、使いこなす。それが自分たちの文化を前進させることになる。その前提の確認がまず大事です。

ゲームに一番不安を感じているのは保護者や教師の方々だと思いますが、その方たちにとってのゲームリテラシーを考えたとき、まず求められるのは子どもたちと一緒にプレイすることです。保護者や教師の方々が不安を持っている最大の理由は、自分の子ども、あるいは児童・生徒がどういうゲームをプレイしているのか内容を知らないから、自身がプレイしたことがないからだと思います。ならば、ゲームを知ることから始めましょう。

ゲームにはコミュニケーションツールという側面もあります。大人数でできるゲームもありますから、子どもや児童・生徒が好きなゲームを一緒にプレイして、ゲームを通じて対話をする。そうすると、自分がその場にいるわけですから、これ以上この子たちがプレイするとよくないとか、影響が出てくるとかがわかってきます。そしたら、子どもや児童・生徒と話し合って、「このくらいの時間がいいのかな」「これくらいでやめようか」と、それぞれで決めればいいと思います。一人ひとり生活のスタイルが違うので、例えば「1日に1時間」と決めつけてしまうのではなく、自分の力で「何時間プレイする」という判断力を子どもたちにつけさせることが大事です。

そして、できるなら、お父さんやお母さん、学校の先生も自分が好きなゲームを見つけてほしいと思います。そのゲームが会話のきっかけにもなります。私も息子と一緒にゲームをやります。デジタルゲーム研究を始めて何が一番よかったかというと、うちの子どもから尊敬されること。「ゲームを研究しているんだ、すごい!」と言われます。それが私にとって研究の最大の成果かもしれません(笑)。

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