研究者インタビュー
テレビゲームへの正しい理解を
武藤 春光先生インタビュー
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弁護士/帝京大学名誉教授
武藤 春光(むとう しゅんこう)
昭和 4年 3月生まれ。昭和28年 4 月 横浜地裁判事補、昭和38年 4月 東京地裁判事、昭和41年 4月 司法研修所教官、昭和57年 4月 東京高裁判事、昭和59年 4月 新潟地裁所長、平成 3年 5月 広島高裁長官、平成 4年 9月弁護士登録(第一東京弁護士会)、平成 4年10月帝京大学法学部教授(平成15年3月より名誉教授)
第1回家庭用ゲーム業界全体としての自主規制が必要になり、2002年にCEROが誕生しました。
2011年11月28日掲載
- ――武藤先生はCEROの発起人のお一人ですが、CEROの発足に至った経緯をお聞かせください。
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武藤:「特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(略称:CERO)」は、家庭用ゲームソフトおよび一部のパソコンゲームソフトを対象として、ゲームソフトの表現に関する倫理規定の策定および審査を行っている団体です。
CEROが発足する前(2002年以前)は、それぞれの家庭用ゲーム機メーカーが独自の基準の下で審査を行っておりました。そのため、当時は同じ内容のゲームソフトを複数のゲーム機用に発売する場合、ゲーム機ごとの異なる基準のため、一部のゲームソフトは内容の修正等を行うといったことがありました。加えて、CESAの加盟会社については、CESAの倫理規定も遵守しなければなりません。そのため、CESAに加盟していたゲームソフトメーカーは、家庭用ゲーム機メーカーとCESA倫理委員会との二重のチェックを受けていた時代がありました。また、CERO発足前の我が国の家庭用ゲームソフトはあくまで「全年齢対象」を前提として制作されていたため、この前提による表現の制約を受けたゲームソフトが少なからず存在するということになりました。
一方、諸外国では、既に年齢別レーティング制度を導入しており、年齢に適したゲームソフト作りが進む合理的な制度を採用していました。そこで、日本でもレーティング制度を整備する必要があるということになり、業界団体であるCESAが主導してレーティング制度の検討をすることになりました。
CESAでは、倫理委員会の中でレーティング制度採用に関する議論をしていましたが、「審査をどこで実施するのが適当か」につき議論した結果、CESAとは離れた別組織で審査を行うことが望ましいとの結論に至りました。なお、倫理委員会での検討の経緯については、下記資料に詳細にまとめられています。(「『家庭用ゲームソフトのレーティングシステム』の在り方に関する検証レポート」[PDF])
当時、私はCESAで業界外選出の理事を務めておりましたが、CESAの辻本憲三会長(当時)と渡邊和也専務理事(当時、現在はCERO専務理事)よりご依頼を受け、この新たな組織の代表者を引き受けたという経緯があります。その結果、私と辻本会長、渡邊専務理事の3名が発起人となって、任意団体としてCEROを設立致しました(2002年6月設立)。設立後間もなく2002年10月より審査業務を開始致しました。その後法人格取得の是非について検討を重ね、2003年12月に東京都より特定非営利活動法人の認証を受け現在に至っています。発足の詳細については、渡邊専務理事が寄稿した「2010CESAゲーム白書」にまとめられています。こちらも合わせて参考にされると良いでしょう。
- ――2005年5月に、神奈川県が「グランド・セフト・オートIII (GTA III)」というタイトルのゲームソフトを有害図書類として個別指定をしました。以降、神奈川県の動きに続く形で他の自治体でもこのタイトルの個別指定を行う動きが見られました。また、翌2006年には、CEROは、レーティング制度を一新し、新たにレーティングに「Z区分」を設けられましたが、これに伴い、CEROを団体指定する自治体も出てまいりました。
当時、ゲームユーザーの方々からは、「基本的に業界側の自主規制で十分機能しているのではないか」といったご意見や「行政からの規制介入に対し、もっと抗議すべきではないか」等といったご意見も寄せられていました。これらの意見は、外から見えにくい一連の動きを誤解していることによるように思われますが、その一連の動きを踏まえた上で、CEROとしては、当時どのような判断をされていたかにつきお聞かせください。 -
武藤:当時のことを振り返りますと、2005年頃から、神奈川県の松沢成文知事(当時)をはじめ、各自治体が「ゲームソフトの有害図書類指定」の問題に関心を持ちはじめるようになりました。
2005年当時、CEROは審査を開始してから3年が過ぎ、既に中立的な立場でゲームソフトの全数審査を行っておりました。同時に、レーティング制度の基準評価改正作業にも取り組んでいました。
ゲームソフトの表現の度合いについては必ず両方の意見があります。一方では、暴力的表現について、「戦闘シーンが面白く、もっと過激な方がいい」という意見や、性的な描写については、「もっと規制を緩くし、過激な表現を取り入れてもいいのではないか」という緩和を歓迎する意見があります。しかし、他方では、「いずれの表現においてももっと厳しく規制すべきだ」という規制強化派の意見もあります。
こうした相対する議論においては、決して「最終的な正解」が出るものではなく、硬軟両論が以前から何度も繰り返し行われてきているのが実情です。しかし、その相対する議論の落としどころ、つまり、いつの時代にも「その時代に適合した基準」があると考えます。
そうした観点から、CEROでは一定の審査基準を設けているわけです。審査基準の許容する上限の枠を超えるものについては審査結果を与えていません。そして、レーティング未取得のものについてはゲーム機メーカーの量産許可が下りません。従って、CEROの審査基準枠を超えるソフトは自動的に発売できない仕組みになっています。
「GTA III」の審査では、CEROとしては当時の審査基準の枠に照らして合致していると判断しレーティングを与えました。つまり、「GTA III」については「有害図書類にあたらない」という認識でした。当時の神奈川県の判断では「有害図書類」との判断でしたが、こういう見解の相違が起こることはやむを得ないことです。
さらに、社会全体からの意見として、「CEROの審査基準の許容する上限をもう少し上げたほうが良い」という意見が大勢を占めるならば、基準を上げていけば良いと考えています。
このような経緯を経て、18才未満の青少年にはプレイさせない、大人に向けた商品区分を創設することとなり、「18才以上のみ対象」商品である「Z」区分を作ったわけです。「Z」区分については「販売場所の指定」や、「販売時の年齢確認」を各店舗にお願いすることになりました。「Z」区分ができたことにより、各自治体の認識が変わってきました。それまでは各自治体のゲームやゲームのレーティングに関する認識があまりにも低かったわけですが、CEROという中立の審査機構があり、そこで公正な審査を行っているのだという認識が進むにつれ、次第に理解が得られるようになったと思っています。
この「業界と各自治体との一連の動き」が一見して対立構造的に見られがちですが、決して対立しているわけではありません。当初は、各自治体の方々において、「ゲームソフトのレーティング制度の仕組み、並びにCEROという審査機構の中立性」についての理解が不足していたことから、若干の混乱があったのだと認識しています。今では、全く問題がありません。