研究者インタビュー
テレビゲームへの正しい理解を
後藤 弘子先生インタビュー
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千葉大学 大学院専門法務研究科教授
後藤 弘子(ごとう ひろこ)
千葉大学大学院専門法務研究科教授。1958年福島県生まれ。1987年慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得。立教大学法学部助手。富士短期大学・東京富士大学経営学部助教授を経て、2004年4月より現職。専門は刑事法。著作に「ビギナーズ少年法」「犯罪被害者と少年法」「少年非行と子どもたち」「少年犯罪と少年法」など。特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)理事を務める。
第3回ゲーム業界は「自主規制をしてきたこと」によって健全な成長を遂げてきた
2011年07月04日掲載
- ――最近ではスマートフォンや携帯電話でも家庭用ゲームと同じようなゲームをできるようになりました。こうした新たなデバイスが生まれゲームと青少年の関わり方も変わってくると思いますが、いかがでしょうか?
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後藤:これまでは家庭用ゲームは、「限られたプラットフォームで子どもが家庭で遊ぶこと」を前提として作られてきました。従って、そういう面では比較的、家庭用ゲーム業界は「青少年に対するネガティブな影響を排除し続けてきた業界」と言えるのではないでしょうか。言い換えれば、他のメディア業界と比較しても家庭用ゲーム業界は性表現や暴力表現の自主規制をしており、子どもにとってフレンドリーな業界といえるでしょう。性表現は法律面で規制がありますが、暴力表現は法律的には規制がありません。だからこそコンテンツを制作するときに子どもに対して適切かどうか、家庭用ゲーム業界は考えていると思うのです。そもそも家庭用ゲーム業界の成り立ちからして、「家庭で遊ぶ」というところから発生したものですから、親の目を意識しているという点で安心できる業界といえるのかもしれません。現在はインターネット上で流通している、誰が作ったかもわからず、青少年や子どもたちに見せたくないようなコンテンツもたくさんあります。残虐な暴力やわいせつ、さらには児童ポルノまでもあります。やはりそれは子どものことを考えず、おとなが喜ぶためだけに作られているからだと思います。
これから家庭用ゲーム機も更にインタラクティブなものになってきます。新しいデバイスに新しいゲームが誕生していきます。その時に大切なのは、「親の役割」だと思います。現在の親は「自分でもゲームをしてきた世代」も多いと思います。子どもの頃、夢中になってテレビの前にかじりついてきた世代です。だからこそ、「子どもがどんなゲームをやろうとしているのかわかる」のではないでしょうか。その時に適切なアドバイスをしてあげることができると思います。これまでは、「親がゲームをしてきた世代ではない」ことから、「ゲームを基本的に知らない」ということがよくありました。しかし、もうここ数年で「親がゲームで育った世代」になりますから、家庭でもソフトの良し悪しが判断できるようになるでしょう。そのため、これまで以上に見る目が厳しくなるでしょう。
昨今では、テレビの前だけでなく、携帯型ゲーム機や携帯電話など、常にゲームと触れ合うことができる環境になっています。それに伴い、子どもや青少年にネガティブな影響を与える機会も多くなってきました。そういう時代だからこそ、CEROのレーティングを参考にし、適切なゲームを買い与えてほしいと思います。
- ――家庭用ゲーム業界に「今後期待すること」は何ですか?
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後藤:これからは、「ゲームを通じてコミュニケーションを図ること」が主流となるでしょう。すでに「家族で一緒に楽しむことのできるゲーム機」や「室内でスポーツができるソフト」などが登場し人気を得ています。これからは、この路線をドンドン進化させ、「コミュニケーションツール」としての役割を持って、家族や友達と触れ合うことができるようになってほしいと思います。
これまでは、「個人がテレビの前へ座ってひたすら画面を見ている」機会が多くありました。友達を家に呼んでも、「個人がそれぞれバラバラにゲームをしている」ということも見受けられます。そうしたシーンが「人と触れ合うことができない」「部屋にひきこもっている」などの批判を浴びてきました。凶悪な青少年の犯罪が起きたら、さも「ゲームをし過ぎたから」あるいは「ゲームの中の残虐シーンを真似た」などと言われてきました。しかし、よく考えると、家庭用ゲームは各メディアの中でも「一番健全なメディア」と言えるのではないでしょうか。CEROによって自主規制し、さらには作り手が子どもの目線を意識して制作しています。しかもインターネットのように猥褻や暴力などが乱立している現状を考えると、「プラットフォームメーカーとソフト製作者が一体となって自主的に倫理を守っている」家庭用ゲーム業界は健全だと言えます。