研究者インタビュー
テレビゲームへの正しい理解を
後藤 弘子先生インタビュー
-
千葉大学 大学院専門法務研究科教授
後藤 弘子(ごとう ひろこ)
千葉大学大学院専門法務研究科教授。1958年福島県生まれ。1987年慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得。立教大学法学部助手。富士短期大学・東京富士大学経営学部助教授を経て、2004年4月より現職。専門は刑事法。著作に「ビギナーズ少年法」「犯罪被害者と少年法」「少年非行と子どもたち」「少年犯罪と少年法」など。特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)理事を務める。
第1回青少年の健全な育成に有害な影響を与えてはいけない
2011年05月30日掲載
- ――先生は「刑事法」の研究をされていますが、まずはその専攻についてお教えいただけますか。
-
後藤:私の専門は刑事法という「犯罪と刑罰」についての学問です。「何を犯罪とするのか」そしてその犯罪に対して「どういう刑罰を科せばいいのか」、また犯罪を行った人に対して「どのような処遇を行えばよいのか」といったことを研究しています。
中でも私が特に力を注いでいるのは、子どもや女性に対する犯罪についてです。子どもについては、「子どもが犯罪を犯した時、社会がどのような対応をした方がいいのか」という研究をしています。もう一方の女性では、加害者となった場合や、被害者となった場合についても研究しています。被害者については、特に「ドメスティックバイオレンスや性的な被害に遭った場合にどのように対応したらいいのか」を研究しています。
- ――ゲームも「刑事法」という学問と関係があるとお考えでしょうか?
-
後藤:ゲームも様々なジャンルのものがあると思いますが、中には暴力的なものも随分とあると思います。例えばゲームの中でバイオレントな行為を扱うのも多いですね。人を殴ったり、あるいは殺したりするものもありますが、これはリアルな世界ではこのような行為をしたなら完全に「犯罪行為」ですね。
刑事法という学問は、基本的には「国」という仕組みの中で、ある行為を「いい」としたり、ある行為を「悪い」と評価することであり、さらに悪いことをした時にどういう対応を行えばいいのかを決めるものです。ゲームも同じで、基本的にゲームの世界の中でいい事をすれば、どんどん色々なことができるようになるし、悪いことをすればどんどん制限されるようになりますね。そういった意味では子どもたちは「ゲームの中でいい事と悪い事との区別を自然と学んでいる」のかもしれません。
- ――先生はCERO(特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構)の理事もされていますが、ゲームにおける表現の自由と青少年への影響との関係をどう思われますか。
-
後藤:表現で主に問題となるのは「性表現」と「暴力表現」ですが、家庭用ゲームの場合、性の問題はほとんどありません。CEROがレーティングをする場合でも性的な件はかなり厳しく規制していますし、メーカーさんも気をつけて作っているようです。
もう一つの問題として、「ジェンダー差別」があります。「ジェンダー」というのは「社会的・文化的な性差」であり、「性別に関する固定観念」のことです。例えば、暴力シーンのあるゲームなどではよく見られますが、作り手の多くが男性であり、その作り手が「男性ファンのために作ったゲームの中に現れる女性像」などがこのジェンダー差別に該当することが多いです。具体的に言うと、戦闘シーンで女性が「露出の多いコスチューム」であったり、「スカートやハイヒールで戦ったりすること」などが該当するわけです。こうした表現に傾いてしまうのは、男性視点で作っているためで、結果として、そうした表現になってしまうのでしょう。リアルな世界で考えればすぐにわかることですが、本来、格闘や戦闘に臨む際には、防御がしやすく、動きやすい格好で戦うのが当たり前です。それをあえて、露出度の高いスタイルで戦わすことは、共に闘う仲間として見ていない点で、女性に対する差別といえるわけです。