研究者インタビュー
テレビゲームへの正しい理解を
高杉 紳一郎先生インタビュー
-
九州大学病院リハビリテーション部診療准教授
高杉 紳一郎(たかすぎ しんいちろう)
1958年、 福岡県生まれ。九州大学病院 リハビリテーション部診療准教授、医学博士。昭和58年に九州大学医学部卒業。以後10年間は整形外科医として臨床診療に従事。平成5年から九州大学病院リハビリテーション部に勤務。整形外科医局長や健康科学センター講師を歴任。専門は、健康増進医学(特に転倒・骨折の予防)や、高齢者・障害者福祉。介護保険審査会委員。日体協公認スポーツドクター。
第1回周囲が驚いた整形外科医からリハビリテーション部への転身
2012年02月27日掲載
- ――はじめに先生にお聞きしますが、リハビリテーション(リハビリ)や転倒予防などの研究を始めたのはどういった理由からなのか教えていただけますか?
-
高杉: 実は私は、初めからリハビリ専門にスタートしたわけではなく、大学を卒業してずっと整形外科の医師として10年間過ごしてきました。臨床現場で骨折や関節炎などの患者さんの治療に携わってきたのです。もちろん手術も連日行い、そしてリハビリにも立ち会ったりしてきました。毎日患者さんを診察して、注射して、薬を出して、手術して、リハビリして......、それが整形外科医として当然の事のように思っていました。ところがある日、見方を変えて患者さんの立場になって考えてみたのです。患者さんは、注射されて、薬を飲まされて、手術されて、リハビリに取り組むわけですが、「この一連の行為を喜ぶ人は誰一人としていないのではないか?」という事に気づいた訳です。そうした課題意識を持ち続けた結果、最終的に「予防医学」という考え方にたどり着き、その大切さに目覚めました。今から18年ぐらい前のことです。
当時、予防医学という考え方が少しずつ広まろうとしていました。そこで、私も予防医学を学びたいと思い、スポーツ医学やリハビリテーションの分野に転身したのです。それ以来ずっと九州大学病院で臨床・研究・教育に携わっています。
- ――それまで医師として活躍されてきて、突然の転身に周囲の反応はどうでしたか?
-
高杉:それはものすごい反応でした。医者の中では、外科系からリハビリに移ることは"メスを捨てる"というのです。手術をせずにリハビリに移るというのはそれほど大きなことなのです。転身の理由を「健康を悪くしたのか?」「目を悪くしたのか?」などと同僚や先輩からも言われました。大学を卒業して10年間外科医として経験を重ねて自信がつき、手術もこなして、患者さんの病状に対して的確な診療ができる。そういった意気揚々の時期でしたから、なおさら大きな決断が必要でした。
決断を後押しした理由をさらに付け加えるならば、当時ある実業団のスポーツドクターとしての仕事をしていたことにも起因します。実業団の選手たちの診察をしていたある日、選手からこんな事を言われました。
「ケガをした際、先生に言えば診断も治療もしていただける。それは本当に心から感謝しています。しかしできることならば、『どうしたらケガをしなくて走ることができるのか』『どういう健康管理をしたらケガのない身体になるのか』ということを教えてほしいです。」
これは私にとって衝撃的でした。医者は「すでにケガをしている人を治すこと」が仕事で、何の疑問も持たずに取り組んできたのですが、「ケガをしない身体づくり」などは考えたこともなかったからです。それが34歳の時でした。
そこで思い切ってリハビリの方に移りました。
2000年に介護保険が生まれて、お年寄りもスポーツ選手のように「身体を鍛えれば病気やケガが少なくなるのではないか?」といった考えも出てきました。スポーツ医学とリハビリとは似ていることも多くて、筋肉の使い方とか疲労の取り除き方等かなり役に立つことが多くあります。
そして、介護保険が生まれた頃に、多くの「筋トレマシーン」が登場してきました。しかし、実際に使用している人たちを見ていると、「皆が歯を食いしばって、苦しんで、一生懸命に身体を動かしている」のですね。もちろん、筋肉を造ったり鍛えたりするものですから、それでいいのかもしれませんが、「シニアやお年寄りには難しいな」と思ったのです。「継続は力」です。単調で苦しかったら長続きしないですからね。