Game Industry Interviews

研究者インタビュー

テレビゲームへの正しい理解を

高杉 紳一郎先生インタビュー

高杉 紳一郎先生

九州大学病院リハビリテーション部診療准教授

高杉 紳一郎(たかすぎ しんいちろう)

1958年、 福岡県生まれ。九州大学病院 リハビリテーション部診療准教授、医学博士。昭和58年に九州大学医学部卒業。以後10年間は整形外科医として臨床診療に従事。平成5年から九州大学病院リハビリテーション部に勤務。整形外科医局長や健康科学センター講師を歴任。専門は、健康増進医学(特に転倒・骨折の予防)や、高齢者・障害者福祉。介護保険審査会委員。日体協公認スポーツドクター。

第3回オランダにも輸出したリハビリテインメント機

2012年03月26日掲載

――高齢化社会が到来しており、ゲーム産業も若い人たちばかりターゲットにしたゲームを開発するだけでなく、高齢者に向けた取り組みも必要になってくると思うのですが、先生のご意見をお聞かせください。

高杉:「シリアスゲーム」という言葉があります。一般的に「エンターテインメント性だけを追求せずに『医療』や『教育』などを主目的とするコンピュータゲーム」のことですが、今後はこうした分野のゲームが増えてきたらいいと思っています。少し前では「脳トレ」や「えいご漬け」などのソフトが人気でしたが、もっともっと登場してきてほしいと思っています。「楽しい」「面白い」「ワクワク感」など、ゲームが本来持つ資質を活かしてモチベーションや集中力を高め、高齢者だけでなく幅広い年齢の人たちが、楽しみながら、勉強ができたり、身体を動かしたりできるのはすごい、素晴らしいことだと思います。

ただ残念ながら、我が国ではゲームの活用は国の施策にはなっていません。たとえば「ゲームを通して、高齢者が健康になって病院通いが減る」あるいは「ゲームをすることで病気がそれ以上悪化しない」等、健康づくりや予防医学の面で貢献できるなら、国として医療や介護の報酬制度に組み込むという形も考えられます。また、このような有用なコンテンツを作る企業に対しては助成を行い、後押しする方法もあります。そのゲーム機やコンテンツを導入する施設側に補助金を出すのも、利用場面が増えますね。国がもっとこうした事業の価値に気づいて、産官学が連携して取り組めればいいなと思います。アメリカやヨーロッパの一部では、国や自治体の施策としてゲームを活用し、成長産業として戦略的に育てていますよ。

――最近、オランダから「高齢者のリハビリ用機器としてゲーム機を導入したい」というお話があったそうですが。

高杉:そうです。オランダ・レーワルデン市のNHL応用科学大学から「高齢者のリハビリ用にゲームを活用する共同研究をしたい」との申し出があり、ナムコさんのゲーム機を2台送りました。そのうち1台は「ドキドキへび退治」といって、高齢者がイスに座って次々と出てくるヘビを足で踏むというもので、転倒予防に効果的な足の運動を"絶対に転倒しないで安全に行える"ことを目指して、設計開発したものです。

実はオランダにはゲームセンターのような施設がないため、大型のアーケードゲーム機についてはあまり知られていないのですが、100%の高齢者から「面白い!」との評価をいただきました。さらにオランダからやって来た研究スタッフらをゲームセンターに連れて行くと、日本のアーケードゲーム機を体感して、ものすごく喜んでいましたね。楽しみながら自然と身体を動かしているわけですから。笑顔いっぱいでした。ちなみにこのゲーム機の輸出費用は、オランダの国家予算から出ました(笑)。 いずれ、日本のノウハウを仕込んだオランダ産のゲーム機を逆輸入する"黒船作戦" を決行しますよ。

このように日本人の作ったゲームはケタはずれに面白いのです。そして非常に評価が高いのです。

これから、ゲームの役割はさらに拡がっていくと思います。これまでもゲーム産業は成長を続けてきましたが、その途中で社会から「ゲームは悪い」「ゲームをすると思考能力が欠如する」といったような誤った評価を受けたりしました。しかし、ゲームの持つ力はものすごいものがあります。なにより、心を動かす力があります。"心が動けば、身体が動く"のです。

リハビリでもっとも必要なことは「継続」です。ゲームには継続させる力があります。"こころスイッチ"を入れることができるのです。歯を食いしばって辛いリハビリを受けるより、笑いながら"思わず手が出る、足も出るリハビリ"をお届けしたいと思います。ゲームにはそれを実現する力があります。

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