Game Industry Interviews

研究者インタビュー

テレビゲームへの正しい理解を

七海 陽先生インタビュー

七海 陽先生

相模女子大学学芸学部子ども教育学科専任講師

七海 陽(ななみ よう)

専門は児童文化学、子どもメディア論など。白百合女子大学文学部児童文化学科卒。 1990年富士通(株)入社。情報産業向けコンピュータシステム営業、BSデジタルデータ放送会社設立などに従事し、2002年フリージャーナリストへ転身。情報化社会での子どもの育ち、デジタルメディアと子どもの発達について調査研究、執筆、講演など社会活動を行う。白百合女子大学児童文化研究センター研究員、お茶の水女子大学文教育学部心理学講座研究員、白百合女子大学・東京工芸大学兼任講師、2005年浜松大学こども健康学科専任講師を経て、2009年より現職。著書に「佐藤家のデジタル生活 子どもたちはどうなるの?」(草土文化)がある。

第1回ゲーム機をうまく利用する試みを重ね、検証する必要がある

2010年05月24日掲載

新しい発見があり、ルールを学べる

――先生は子どもとインターネット、ゲームなどとの関係や影響を調査されていますが、そもそもの発端は何だったのですか?

七海:児童文化学を専攻していた大学時代に、秋葉原の電気屋さんでアルバイトをしていたんです。そのときパソコンのゲームを一心不乱にやっている小学生の男の子と遭遇して、ちょっと心配だなって思っていたのがきっかけです。

児童文化の定義や領域は一様ではないのですが、「子どもに関わる文化と子どもたちとの関係を視点にしながら、子どもたちの全体像をとらえ理解しようとする学問」といってよいと思います。ゲーム遊びは子どもたち自身、子どもたちの生活、文化と密接に関わっていますし、ゲーム機やゲームソフトは文化財です。ですからその関係や子どもへの影響に関心をもったんですが、当時はまだ大学の講義で取り上げられることはなかったんです。

――それからどうされましたか?

七海:ゲームの根幹である「コンピュータ」と人、特に子どもとの関係に興味を持ったので、まずはコンピュータメーカに入社したんです。で、そこで全然違う仕事をしながら、個人的に調査をしはじめました。それがきっかけとなって教育雑誌などに寄稿するようになったのですが、そのときに脳科学の先生とか心理学の先生とか、いろんな分野の研究者の先生にインタビューをしたんです。その結果、「ゲームの悪影響論にはまだはっきりした根拠はない」ということがわかったのです。

――そのような経験をされた先生は、立場的に「ゲーム肯定派」ですか?

七海:最初は懐疑的でしたし、いまでも手放しで肯定しているわけではありません。ただ、「肯定か否定か」という議論よりも、「うまくつきあっていく必要があり」「その方法を探る」ことが大事だと思うんです。

――では、「格闘ゲームの影響」についてはどうお考えですか?

七海:その子の発達状況やその時の状況にもよりますが、一般的に注意が必要なのは「思春期」じゃないでしょうか。「友だち関係」とか「受験」とか、いろんなストレスや葛藤を抱えて不安定になっているところに、例えば極端にリアルな暴力的ゲームをプレイしたとします。するとそれがきっかけとなって何らかの言動に出てしまうことも否定はできないと思います。

――そうですね。

七海:色々な要因が複雑に重なって、なにかのタイミングでパワーが外に向けられてしまうかもしれませんからね。もちろん「因果関係」は特定できないとは思うんですけれど、きっかけを与える可能性はあるのではないでしょうか。ただ、一方でストレスの発散やイライラの解消につながっている場合だってあるわけです。ですから一概に善悪は決められないのです。

――先生が著作で説いておられる"主人公との自己同一化の危険性"についてはいかがでしょうか?

七海:子どもは心身の発達とともに自己を確立していきます。その過程で例えばゲームの中の主人公と一体感を得た場合、良くも悪くも何らかの影響を受けることはあり得ると思うんです。

――「現実と虚構の区別がつかなくなる」ということでしょうか?

七海:もともと子どもは、自分を取り巻くいろいろな世界を知り、現実と空想の世界を行き来しながら、自分の中に人間社会を生きるための概念を作っていきます。その発達の過程はとても重要なんですね。そこに、あまりに多くゲームの世界が入り込んでしまうと、それはやはり心配です。特に幼児期、児童期はいろいろバランスよく経験することが大切です。ゲームも経験しつつ、子ども自身が「ゲームの中の世界と現実とは違うんだ」ということを理解し、区別して日常を送れるよう、親や大人がサポートしていかなければなりません。

――逆に「ゲームのメリット」があるとすれば、それは何でしょう?

七海:子どもの立場に立ってみれば、「ゲームをやることで新しい発見がある」と思うんです。やりながらルールを学べますし、「ここまでクリアした」っていう達成感も得られますし、知識も増える。息抜きにもなりますし、友だちとのコミュニケーションツールでもある。なにより楽しいというのがポイントですね。

――気づかないうちに、色々なものを得ているということでしょうか。

七海:ゲームをすることで、「知らず知らずのうちに学習している」ことって結構多いと思いますよ。それが直接学校の勉強につながらなくても、子どもたちは必ず「ゲームで遊ぶことによって何かを学んでいる」はずです。例えばそれは友達との付き合い方かもしれない。親や大人は「そこ」に気づいてあげる必要があるんです。

――事実、「ニンテンドーDS」を授業に使用している学校もありますしね。

七海:そうですね。ゲームを活用して子どもが学ぶ環境を工夫している例ですね。そうすれば、勉強が嫌いな子どもだってモチベーションが上がるわけです。旺文社の調査(注)によると、現在小学生くらいまでの子どもがいる保護者は「ゲーム機を使った学習」についてあまり抵抗感を持っていないんですね。これについては2月27日の日本経済新聞にもコメントを寄せたのですが、「保護者世代がIT(情報技術)革命を経験してきていることが大きい」と思うんです。おそらく、自分たちの経験からそこに何らかの可能性を見出しているのです。ただ、ゲーム機やゲームソフトをうまく利用することについては、もっと色々な試みをして、検証していく必要があると思います。

(注)旺文社「ゲームと教育に関するアンケート」(調査時期:2009年8月/回答者:3~12歳の子どもを持つ保護者669人)調査結果より。「お子さんにゲーム機で学習させたいと思いますか?」との質問に対し、50.1%が「思う」、43.1%が「どちらともいえない」、6.9%が「思わない」と回答。
【調査結果PDFファイル】 http://www.obunsha.co.jp/files/document/091021.pdf

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