研究者インタビュー
テレビゲームへの正しい理解を
佐々木 輝美教授インタビュー
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国際基督教大学 教授
佐々木 輝美(ささき てるよし)
獨協大学経済学部、外国語学部卒業。米国シラキュース大学に留学し、スピーチコミュニケーション修士号(M.A.)を取得。国際基督教大学大学院で博士号(教育学)を取得。国際基督教大学教授。専門・研究分野は教育コミュニケーション。現在取り組んでいる研究テーマはメディア暴力の、子ども達への影響。教師と生徒のコミュニケーション。教育の技術革新の普及過程。著書に『メディアと暴力』(勁草書房)。
第3回ゲームをすることで、子どもの表現力が増えるといい
2010年02月09日掲載
メディアは、その子の本質を助長させる
- ――今後の取り組みとしては?
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佐々木:取り組みの一つ目は、さっきの食品の内容表示の話と一緒で、「安心して子どもに与えられるような内容に関する情報を提供する仕組みができないかなあ」ということ。でも、それについては難しい面があるんですね。
- ――どんな面が難しいのでしょうか?
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2008年度の調査でわかったことなんですが、ゲームユーザー、教育関係者、親というように三つのグループに分けると、それぞれの感じ方に明確なギャップがあるんですよ。たとえば「少し濃厚なキスシーンがあった」としたとき、ユーザーからは「15歳ぐらいなら、それぐらいいいじゃないか」という意見が出る。ところが親や教育関係者は「いや、18歳まではだめだ」と。だから二つ目の取り組みは、「分かれる意見のどこに妥協点を見出すか」っていうことですね。
- ――人によって考え方は違いますからね。
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佐々木:そしてさらに、そういうギャップは二つの次元があるんです。まず、ひとつの次元はユーザーと、教育関係者、保護者。そして、もうひとつの次元は男と女です。たとえば同じ教育関係者でも男の人は「そのぐらいいいじゃないか」と許すんですけれども、女性の教育関係者は許さなかったりするわけです。
- ――なるほど。それは確かにそうかもしれませんね。
- 佐々木:ですから内容を表示するためには、「そのギャップをどう埋めていくか」という問題をクリアしなければならない。「これは15歳用で、これがその理由ですよ」というコンセンサスが、どこでとれるのかということ。でも、それは非常に難しいですよね。
そんななか、おもしろいのは"ライトユーザーの女性"という存在です。ときどきゲームをする女性ですね。こういう人は「キス表現はどうですか?」と問われた場合、普段ある程度のゲームをプレイするヘビーやミドルユーザーたちが「OKじゃない?」と言っていたとしても、「いや、それはまずい」と親側の立場に立っているんです。それでいて、他の項目ではユーザー側の立場に立ったりして、行ったりきたり揺れ動きもする。つまりライトユーザーがある意味で中庸な存在なんじゃないかということで、もしかしたらそこが基準になるかもしれないですね。
- ――それはおもしろいですね。
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佐々木:そして三つ目の取り組みは、「教育的な活用法」ですね。ゲームは子どもたちの注意を引く有効なメディアですから、教育的な利用の領域はこれからどんどん広げてほしいですし、どうやったら広げられるだろうということを考える必要があると思うんです。新しい活用方法は、これからどんどん出てくるでしょうね。
ただし、あくまでも大切なのは「ゲームを使って学ばせる先生の存在」です。ゲーム単体で最初から最後まで、子どもたちを教育できるとは思いませんね。
- ――子どもにゲームを与える親にアドバイスできることは?
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佐々木:もし親がリーダーシップをとれるのであれば、子どもの特徴を把握してゲームソフトを選んであげると、子どもは伸びると思うんですよ。たとえば歴史が好きな子だったとしたら、「こういうのがあるよ」みたいな感じで導いてあげるとか。
- ――親のリーダーシップは大切ですね。
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佐々木:メディアって、その子がもともと持っているものを助長させると思うんです。たとえば暴力的な男の子は、与えるメディアによってはもっと暴力的になってしまう。事実、女の子に暴力的なゲームをやらせても、もともとそういう傾向が少ないから暴力的にはならないんですよね。
そういう意味でも、せめて最初のゲームぐらいは親が選んであげた方がいいと思いますね。エンターテインメントの先には、「光」もあれば「影」もありますから。
- ――ゲーム会社に対しては何を伝えたいですか?
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佐々木:ゲーム会社の人は、時代時代の空気を読み取る能力というか、時代との関わりのなかで暴力をどう表現すべきかコンセプトを持っていてほしいですよね。いま社会がどういう方向に向いているのか、基本的な考えを崩さずに、そのうえで表現してもらえたらいいと思うんです。
それを超えてしまうものもあっていいとは思うんですけれど、そういう場合は「18歳未満はだめ」というような領域を作ったうえで自由に表現する方がいい。「18歳の境界線」って、難しいけれどとても大事なんですよね。
- ――コミュニケーションメディアとしてのゲームの可能性をどうお考えですか?
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佐々木:共通の話題を通して家族が結びつくというのは、とてもいいことですよね。どうして日本の家族は話をしないのかなってときどき考えるんですけれど、「親は親らしくしなきゃいけない」みたいな発想があるからかもしれない。だからこそ、「お父さんが負けて子どもが勝つ」みたいなゲームがとても役に立っていくんじゃないでしょうかね。
- ――それこそ真のコミュニケーションですね。
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それともう一つ。家族で一緒にゲームをすることで、子どものボキャブラリーや表現力が増えるといいなと思っているんです。常に「負けた。ざまあみろ!」などという表現をするのではなく、「今日は調子悪いね」「昨日と比べてずいぶん進歩したね」みたいに同じ状況でも会話のバリエーションを変えると効果的なんですよ。
実はこれは、教員がよく使う手なんですけれど、ただ「すごいな」というだけではなくて、「昨日は10点だったけど、今回は15点取れたじゃないか」みたいにさまざまに表現を変えて具体的に伝えることは必要なんです。コミュニケーションするうえでは言葉がとても大事なので、そういう文脈で接すればボキャブラリーや表現力も増えていくんですね。
- ――それは、ゲームとの理想的な距離感でもあるかもしれませんね。
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佐々木:我が家でも、ときどき息子は友だちからグロくてエグいゲームを借りてきたことがありました。私も一緒にやるんだけれど、(あんな大けがをしちゃったら)「うわー、あれじゃもう、家に帰れないよな」とか「おいしいものをもう食べられないよね」とか、同じシーンに対していろいろなコメントをするようにしています。
ただ黙々とゲームをするのではなく、たくさん会話していく。そういうことが意外に大切で、だから「Wii Sports」のようなゲームにも、親のためのマニュアルがあるといいかもしれないですね。例えばゲームの対戦で「子どもに負けたときは素直に負けを認める表現集」とか書いてあるような。あるいは、「どうやってほめるか」のボキャブラリー・リストがあったりしてもいいかもしれませんね。