研究者インタビュー
テレビゲームへの正しい理解を
佐々木 輝美教授インタビュー
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国際基督教大学 教授
佐々木 輝美(ささき てるよし)
獨協大学経済学部、外国語学部卒業。米国シラキュース大学に留学し、スピーチコミュニケーション修士号(M.A.)を取得。国際基督教大学大学院で博士号(教育学)を取得。国際基督教大学教授。専門・研究分野は教育コミュニケーション。現在取り組んでいる研究テーマはメディア暴力の、子ども達への影響。教師と生徒のコミュニケーション。教育の技術革新の普及過程。著書に『メディアと暴力』(勁草書房)。
第2回なによりも大切なのは、メディアの向こう側にあるリアルを経験させること
2010年01月12日掲載
親は子どもの興味を把握しておくべき
- ――親が子どもにゲームを与える際の注意点は?
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佐々木:ゲームに関する子どもの情報源は、「仲間」か「親」だと思うんです。基本的に子どもはなかなか判断がつきませんから、ともすると周囲の情報に流されてしまいがちですよね。たとえば、もしも情報源である仲間がちょっと悪かったりすると、いきなり激しい内容の暴力のゲームに触れてしまうことにもなりかねないんです。
でも、子どもが初めてゲームに触れる時ってとても大事だから、まずそこをなんとかしなきゃいけない。「良くないものに影響されるような状況を避けなければならない」ということです。だからそのためには親もしっかり誘導していかなければいけないですし、あとはゲーム会社による情報提供の仕方もすごく大切ですね。
- ――そういう意味で、作り手が乗り越えていくべきこととは?
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佐々木:ゲームクリエイターの発想の中心は「いかに売るか」だと思うんですよ。そのために、文脈とは関係のないおもしろおかしい暴力が入ってくることもある。でも、その結果として、いろいろな問題点が指摘されるようになっていますよね。ですから、そこをなんとかしなければならない。具体的には、親が自然に「このゲーム、いいじゃない」と言いたくなるような内容のゲームを増やすことが今後は必要になってくる気がしますね。
- ――先生はゲームをプレイされますか?
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佐々木:いまは子どもが大きくなったのでほとんど遊びませんけれど、以前は子どもと一緒に遊ぶことが多かったので、よく遊んでいました。ある時、子どもがゲームを欲しいというので、一緒に買いに行ったんですよ。どんなゲームを買おうか悩んだんですが、子どもは車が好きだったので、最初はレーシングゲームを買いました。私も一緒になって、レーシングハンドルも追加購入して、ずいぶん熱くなって遊んでいました。それがもう10年近く前のことですね。
僕は教育者的な観点からそうしたんですけれど、子どもにもともとある興味を親が把握しておくことって大事だと思うんです。うちはレーシングゲームから入って、スポーツが好きだったのでその後はベースボールゲームに進んだわけですが、今振り返って考えてみても、この入り口の部分が大事だと思うんですよね。
- ――以後も先生はお子さんとゲームにのめり込んでいったのですか?
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佐々木:いや、ある時期からやらなくなりました。理由は「子どもがゲームから離れていったから」です。息子は野球も好きだったので、やがてベースボールゲームよりも実際の野球に興味を持つようになって、その後野球部にはいったんですよ。で、野球をはじめたら、忙しくてゲームをする時間がなくなったみたいで。
- ――ある意味で、メディアと現実の理想的な関係性ですね。
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佐々木:ある研究者が、とても印象的なことを言っていたのを聞いたことがあるんです。我々がすべての現実を直接体験できればいいけれど、それは難しいですよね。だから、媒介するメディアが必要になってくる。でもゲームでもテレビでも、媒体はあくまでも媒体でしかないから、媒体の向こう側にある本物に導いてあげないといけない、と。
私も、その意見にはすごく納得できましたね。メディアはとても役に立つものですけれど、その役割を考えると、単なる媒体のみで終わってはいけない気がするんです。そういう意味でも「媒体の向こうにある本物を経験させたいな」と思いますね。
- ――今回の調査の結果をどう活かしますか?
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佐々木:比較的暴力表現についての苦情が多かったので、今後は暴力についてのレーティングを考えなきゃいけないと思っています。ただ、もともと暴力表現についてのゲームの基準は厳しかったので、ほぼ今までどおりでいいんですね。ただし、2008年度調査(2009年3月発行)では、性に対する基準については、「ちょっと基準を緩めてもいいんじゃないか」という調査結果が出てきたんです。ただ一方で、それは世界的に見ると危険だと、私自身は思うんですけれどね。
なぜなら日本には日本の文化的背景があるし、外国には外国の背景があるからです。キリスト教文化の影響もあって、海外では比較的性について厳しい傾向にあるんですよ。それに対して、日本はちょっとゆるやかなところがある。だからそのギャップを埋めていくために、今後は世界の状況をさらに調べていかなければいけないと思っています。ヨーロッパとアメリカでどのように基準を設けているか、いま調査計画を立てているところです。