研究者インタビュー
テレビゲームへの正しい理解を
武藤 春光先生インタビュー
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弁護士/帝京大学名誉教授
武藤 春光(むとう しゅんこう)
昭和 4年 3月生まれ。昭和28年 4 月 横浜地裁判事補、昭和38年 4月 東京地裁判事、昭和41年 4月 司法研修所教官、昭和57年 4月 東京高裁判事、昭和59年 4月 新潟地裁所長、平成 3年 5月 広島高裁長官、平成 4年 9月弁護士登録(第一東京弁護士会)、平成 4年10月帝京大学法学部教授(平成15年3月より名誉教授)
第2回表現の自由を最大限に尊重しつつ、公共の利益を損わないように努める義務を負う
2011年12月12日掲載
- ――2006年3月より旧レーティング制度(「全年齢対象」「12才以上対象」「15才以上対象」「18才以上対象」)から新しいレーティング制度(「A(全年齢対象)」「B(12才以上対象)」「C(15才以上対象)」「D(17才以上対象)」「Z(18才以上のみ対象)」)に移行いたしました。
移行後しばらくすると、自治体の動きが沈静化し一段落した印象を受けましたが、行政とのやり取りを通じてお考えになった点をお聞かせください。 -
武藤:「Z」区分が導入された新しいレーティング制度以降は、各自治体の理解も深まり、その後は家庭用ゲームソフトに関しては自治体ベースで個別に「有害図書類」を指定するようなことは起きていません。旧レーティング制度のころは、各自治体のこういった取り組みが盛んに行われていましたが、新レーティング制度導入以降は、各自治体もCEROの取り組みを信頼してくれた結果からなのか、また、関心がなくなったからなのかはわかりませんが、あまり問題として取り上げられなくなりました。いずれにせよ各自治体の理解が深まったことが、一番の大きな要因であると思っています。
- ――今後の課題についてお聞かせください。
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武藤:今後、CEROの審査するゲームの範囲をどこまでにするかという点です。これからは携帯電話やスマートフォンといったゲーム専用機以外でのゲーム利用が増え、ゲームの種類・選択肢が増えていくにつれ、みなさんがゲームに接触する頻度も当然増えてまいります。それに加えてこれまでの家庭用ゲーム機とは違ったゲーム利用というものも出てまいります。
こうした携帯電話やスマートフォンのような新たなプラットフォーム用のゲームについて、その内容に対して何らチェックがかからず野放しで良いとは考えておりません。社会的な抑制はどうしても必要となってまいります。社会に裁判所があるように、どのような領域においても何かの基準が必要であると思っています。そういった意味で、CEROとしては、これまでの活動経験を活かして中立の審査機関として参画をしていきたいと考えています。
ただ、携帯電話やスマートフォンのゲームについて今後どういったものがでてくるのか、どのように審査を行うべきか、まだ模索中の段階です。米国等の国際的な団体や他の国の事例の把握などを踏まえながら取り組んでいきたいと考えています。
また、ネットワークゲームの中では、「ソーシャルゲーム」などパッケージされていないゲームもあります。このようなゲームに対して、どのように審査し、どのようにレーティング表示していくのか、具体的な手法はこれから検討していきたいと考えています。大まかな見通しですが、基本的な考え方は、「セルフコントロールによることとして、その基準作り」を行うということになるでしょう。
ネットワークを介したゲーム全般に言えることですが、「誰が」「どのようにコントロールしていくのか」が重要になってきます。これまでのパッケージソフトは、企業がゲームソフトを供給するのが主流でしたが、企業のみならず個人もゲームソフトを供給できるようになった環境においては、たとえ個人であっても同様の基準が適用されると思います。
- ――最後に、表現問題に関する総括的なご見解をおうかがいします。表現者側には、「表現の自由」という権利があると同時に、「公共の利益を損わないよう努める」義務があると考えられますが、法律面からみた際に、「権利」と「義務」についてどのようなバランスが大事だとお考えですか?
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武藤:ゲームの中での「わいせつ描写」や「暴力表現」などに対する基準は、時代とともに変わるものですが、CEROとしては、その時代の要請に適合する価値基準を明示するように努力しています。従って、その基準によって、個人であれ企業であれ評価されるわけです。ですから、その基準を超えるものは認められないというのが基本的なスタンスです。要するに、表現の自由を最大限に尊重しつつ、公共の利益を損わないように努めるということです。
「小学生にも適したゲームソフト」と「大学生以上を対象としたゲームソフト」を、同一の基準で審査するわけではありません。ゲームを作る側がCEROの基準を十分に理解して、どのようなターゲット層にどのような表現を提供するべきか、よく理解した上で、どんどん表現豊かな作品を作っていけばよいと思います。